ストライクフォール 長谷敏司著 を読む

長谷先生の新作が出た。6月17日発売だが、電子版は24日発売だったので少々待っていた。で、買ったその日の内に早速読んだ。

長谷先生はTwitterで「ラノベでも宇宙くる」とか言ってて、「先生は大丈夫なんだろうか」と人知れず心配していた次第である。

本作は宇宙物である。スポーツ物である。ジュブナイル物であり、家族の物語でもある。

読んでみてどうだったかというと、言ってしまえば一日で全部読んでしまうと言うことは文句なしに面白かったという事でもある。
で、これから述べる以下は読書感想文というよりは自分のためのメモだ。とはいえネタバレは一応慎む。

本作はSFだが、ごりごりのハードSFというよりは物語の骨子としてはスポーツ物の本作を引き立てるためにうまくSF要素を活用しているように感じた。
しかしハードSFではないと言っても科学要素が適当かといえばそんなことはなく、深い造詣を感じさせる。科学要素の描写は非常に難しいのだ。分かってもらうように書かないといけないのだが、書きすぎると冗長だし、簡潔に書きすぎると伝わらない。そのあたり、サラリと書いてあるのに伝わるし、くどくもない。SF作家として経験をつんだ氏の筆力に舌を巻く。
最初から最後まで筆力を見せつけられたような一冊だったように思う。読んでいるとクセになるようなドライブ感のある文章ではないのだけれど、簡潔でありながらストーリーは深く展開していく。テンポに関して特定の箇所だけ間延びする事なく、非常に高いバランス感覚を終始保って緊張感を持ちながらストーリーをつないでいく。
ダイナミックなストーリー展開と、テンポのよい科学描写が心地よい。

本作は続刊を前提にして書かれているので、ストーリーの展開はこれからも続いていくのだろう。この第一巻について、物語構造は非常にシンプルだ。「ストライクフォール」という競技をテーマに、それに打ち込む兄弟を軸に話は展開していく。
ところで、この兄弟の関係性は非常に既視感がある。兄より優れた弟、弟に劣等感を持った兄、そして二人の間で揺れる幼なじみ。これって、タッ……ゲホゲホ。おっとついつい、呼吸を止めて一秒、真剣な目をしてしまった星屑ロンリネス。

さて、
目新しい点はあまり感じられないのだけれど、物語をつづっていく技術力がとにかくすばらしい。さすがプロだよなぁ、と一人の書き手としては格の違いを見せつけられて少々落ち込んでしまう。
本作はロボット物だが、ロボット物を小説でやるのは非常に難しい。理由は言わず物がな、漫画やアニメ等のビジュアルのメディアで発展してきたロボット物を活字で表現するのは困難を極めるからだ。
後書きを読むとその辺も工夫を凝らしている事が分かる。アニメや映画で表現しづらい距離感や速度にクローズアップした軌道バトルを描いている。軌道バトルは活字で描いてもなかなか絵が浮かんでこないのだが、活字では緊迫感を表現しやすいのだ。個人的には秋山瑞人先生の「猫の地球儀」のスパイラルダイブを思い出したりしていた。

続刊が出たらゾンビのように何も考えずに買ってしまって、面白くて、落ち込むのだろう。ああ……

ラノベで宇宙、ほんとに来るんすかね?

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