アリサ編

こっからアリサ編

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「機動生命体」

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アタシは機動生命体。S/Nシリアルナンバー7352番、アリサ。僚機のユニとはぐれてからすでに2時間近く経過している。
ユニは崩壊したプロジェリアから這い出てきた人間状の“何か”に襲われ、アタシとはぐれた。はっきり言ってアタシは途方にくれていた。現在がどういう状況なのかさっぱり分からない。ユニは裸で叫ぶ兄ちゃんにタックルされてどこかに行ってしまったし、今の東京がどういう状態なのか全然分からない。プロジェリオン・フィールドの境目では電波は遮断されるから、作戦本部と連絡がとれないのだ。
あれ、でもそうか、プロジェリオン・フィールドがまだ有効だってことは、プロジェリアがまだ生きているって事で……ああもう、よく分からない。アタシはユニと違って頭良くないんだよ。
とりあえず、まあ、ここにいてもどうにもならないのは確か。ユニを探しに行くか、東京を脱出するか、どうしようか。アタシはとりあえず歩きはじめた。

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アタシにはなんか色々なセンサーがついてるらしい。詳しい機能は忘れた。機能は検索もできるけど、めんどくさい。とりあえず、目の前が真っ暗でも、先の方に何があるのか大体分かる。
ま、色んなセンサーがついていても、先が見えなければ一緒。せいぜいアタシのセンサーで感じることができるのは100メートル先までくらい。で、前方100メートル先も、何もない空間がずっと広がっている。これっていつまで続くんだろうと思いながら、とぼとぼと歩き続ける。
あまりにも退屈すぎて、プロジェリアでも出てこないかな、と思ったりもする。出てきたら出てきたで参っちゃうんだろうけど。
それにしても、ユニとあの裸の兄ちゃんは一体どこに行ったのだろう。アタシのセンサーでも探知できない場所にいけるほど、この地下にただっぴろい空間があるんだろうか。
アタシたちは別に空気を吸ったりするわけではないんだけれども、あまりにも退屈なので、欠伸あくびをしてしまった。
と、そこで気がついた。
前方に何か、反応がある。

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反応は、一個体ではなくて、複数個体。一体何の反応だろう。奇妙な話だ。プロジェリアが発生させる老場プロジェリオン・フィールドを動き回れるような生き物がいることは考えにくい。
だって、普通の生き物はプロジェリオン・フィールドの影響であっという間に年をとって死んでしまうからだ。そして今もプロジェリオン・フィールドは働いていて、アタシの頭部も数回ほど破壊されている。もう慣れてしまったので何も感じないけど。
でも、どうもプロジェリアっぽくない。プロジェリアってこんな密集するんだっけ。
うーん、とアタシは悩む。こんな時にユニがいてくれたらいいのだけど。あいつ、考えるの得意だから。アタシは考えるの苦手なんだよね。
でも、まー死にたいわけじゃないから、これが罠かどうかっていう可能性くらいは考える。早々に死ぬのはイヤだし。
多分だけど、罠を成立させるんだったら、アタシが興味を引きそうなものを“エサ”にしておくはずだ。
で、アタシは今興味をひかれている。
じゃあ罠なんだろうかという気もしてくるが、プロジェリアがアタシの興味をひきそうなものを知っているっていうのは考えにくいような気もする。
というか、あいつら何考えてるのか分からないし。

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まあ、最悪罠だったとしても、なんとかなるでしょう。
それに、老場プロジェリオン・フィールドの中で生きていられる生き物って、興味深い。っていうか、そんな生き物がたくさんいたら、アタシ達ってもういらないんじゃないの? とかちょっと思うけど。
複数の生物がいる場所って、ココから方角的には前方斜め下あたり。どうやってそこまで移動しようか。明らかに床の下だし。
そもそもここって何なんだろう、とアタシは周囲を見渡す。ここって、地下鉄の線路かなんだろうか。ここのさらに下ってことは、この地下鉄よりさらに下のどこかの路線なんだろうか。
床をぶち抜いて移動したら、線路自体が崩落してしまうだろうか。
うーん、どうなんだろう、と思ったけど、結局分からないし。ま、手っ取り早くやっちゃいましょ。
アタシは右腕の拳をものすごく大きくして、床にたたきつけた。線路やコンクリートは、プロジェリオン・フィールドの影響を受けてボロボロになっていたから、簡単に粉々になってしまう。

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ま、こんな線路なんてもう使えないんだから粉々になっても気にはしない。
床に穴を開けるために、何度も殴り続ける。ヒビが入ったところで、拳を鋭く変化させて、くさびを打ち込むようにひび割れに打ち付ける。打ち込めば打ち込むほどヒビが大きくなり、陥没していく。コンクリートごと落下していく。
十メートルくらいは落ちたかなぁ、と思う。以外とそれほど深くない。
目の前には白い空間が広がっている。地下鉄の路線と言うよりは、何かの動力室、通信室。機械や設備のたぐいはなくなっているけれど、そういった何か目的をもって作られた小部屋のような感じだった。
アタシのセンサー類によると、この白い部屋に、十体くらい何か動く物体があるのだけれど、ちょっと驚いてしまったのでアタシの分析は止まったままだ。
これって、まさか。
「怖い……お母さん」
というこの言葉は、当然アタシが発したわけじゃない。目の前にいる子供が、母親に抱きついて、怯えながら言った言葉だ。ちょっとアタシは今、頭が真っ白になってしまっている。
なんでこんなところに人間がいるのか。

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ちょっと思考停止に陥っていたが、人々の視線で正気に戻る。アタシが人間からどういう目で見られているのか考えた。天井から拳の異様にでかい女が降ってきたらそれはとまどうだろう。
「えーとねえ、これはねえ、なんつーの、こういうのってさ、個性だからさ、あんまり冷ややかな目で見てほしくないんだけど。別に手が大きい女がいたっておかしくないでしょ? 胸の大きい女と一緒よ、一緒。変な偏見はよくないね、差別よ差別」
なんかもう自分でも何言ってるのかよく分からなくなってきた。
「……人間、なのか?」
10人ほどいる人間の中で、男が一人アタシの前に進み出る。この集団の代表なのだろうか。痩せ形で髪の寂しい男だ。頭の大陸が三割くらいしか残っていない。
「人間じゃあ、ないね」
アタシは手の拳をどうしたモンかな、と思う。小さくすることは簡単なんだけど、目の前で手の形が異様に変化したら人間達が怖がるかもしれない。
「人間じゃないんなら、アンタはなんなんだ? プロジェリアなのか?」
「プロジェリアじゃあないね、なんか民間人からそう聞かれたら、国家機密だって言えって開発者に言われたね」
今の言葉で少し男の緊張がとけたように見えた。アタシはこの男に、『三割のおっさん』というあだ名を勝手につける。由来は髪の毛の量だ。

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「人間じゃないけど、人間の味方ってところか」
「味方かどうかわかんないけど、プロジェリアと戦えとは言われてるね。ところでさ、三割のおっさん、アタシ、この手を元に戻してもいいかな?」
「さ、三割のおっさん?」
「髪の毛が三割しか残ってないから」
「な、な……」
三割のおっさんは狼狽する。おっさんの狼狽具合を見て周囲の人間がクスクスと笑い始める。受けたようでアタシは少し嬉しい。
「笑うんじゃない!」
一応統率はとれてるようだ。おっさんがそう言うと笑い声が途絶える。毛が生えてない部分が若干赤くなっている。
「もういいや、戻すから。あんまり驚かないでね」
アタシは拳の中の骨格を少しずつバラバラにする。伸びた皮膚も内側に畳みながら取り込んでいく。変化させた体の物質は排出するのがもったいないから取り込んで再利用する。
アタシの右手がベコベコと音を立ててへこんでいく様子に、人間達が顔を引きつらせる。
「アタシ、こんな風に体を好きに変えられんの。覚えておいてね」
「……生体兵器ってヤツなのか」
おっさんがそう言った。
「ま、そんなとこ。ところで、あんた達はなんでこんなところに?」
「俺たちは、プロジェリアに集められたんだ」

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